「洋ニンジン」を知っていますか(食品スーパー旅行記)

正月休みを利用して、関西方面へ行ってきました。
旅行に行ったときは、できるだけ食品スーパーへ立ち寄るようにしています。そこに生活する人がいるかぎり、その土地には食品スーパーがあります。日本中のどこでもスーパーなんて同じだろうと思われるかもしれませんが、いろいろな場所を訪ねていると、意外な地方性がみえてきてとても面白いのです。

まずは、私が食品スーパー巡りをするきっかけになった場所から紹介しましょう。

この写真は、長野県松本市の中心部にある、ごく普通の食品スーパーの、キノコ売り場の様子です。
あきらかに多いのです。もしあなたが長野県民でなければ、近所のスーパーに行ってキノコ売り場を見てみてください。品種も、物量も、こんなに並んでいないはずです。

この写真のスーパー以外にも何軒か行きましたが、やはりキノコ売り場は充実していました。これは、ホクトという企業が長野県内にあることの影響かもしれません。そのへんの山にちょっと入れば採れるという事情もあるかもしれません。*1


次の写真は、今回の旅行で訪れた、岡山県津山市東津山駅近くにある食品スーパーの様子です。

津山ではB級グルメとして「ホルモンうどん」が有名です。おそらく、もともと畜産が盛んな土地であり、そのためホルモンの消費が多かったのではないでしょうか。そこから焼きうどんの具材にホルモンを使うようになり名物になったという経緯がありそうです。それはともかく、普通の食品スーパーでは、こんなにホルモンは売られていません。しかし津山に住む人たちにとっては、これが普通なのかもしれません。
テレビ番組「ブラタモリ」では、ちょっとした地形からその土地の物語を読み解く展開が面白いものですが、B級グルメにもその土地の歴史を想像する可能性があるのかもしれません。*2


ところで、津山ではもうひとつ気になることがありました。「にんじん」が「洋にんじん」という札で売られているのです。

「洋にんじん」という表記をはじめに見たときは、正月の時期だから、金時人参と区別するためなのだろうと思いました。しかし2店舗、3店舗と「洋にんじん」が続くのが気になり、思い切って店員さんに尋ねてみました。
「あの、ヘンなこと聞くんですけど、ニンジンって前から洋ニンジンって書いてありましたっけ?」。店員さんは怪訝な顔で「うちは前から洋ニンジンですね」と答えてくれました。
これまで私は、静岡と茨城に長く住み、その後は東京周辺のベッドタウンなどを転々としています。炊事はいつもしていてスーパーには通っていますが、「洋にんじん」という表記を見た覚えはありません。ニンジンはニンジンであり、京人参や金時人参が特別なはずです。ニンジンはニンジンです。


今回の旅行では、姫路へも立ち寄っていました。姫路駅から姫路城へと続く道のわきには、地元向けの商店街があります。ここの食品スーパーでも、「洋にんじん」と書かれていました。もしかすると関西では「にんじん」ではなく「洋にんじん」が主流なのか……?
ところが、岡山駅ちかくのイオンモールイトーヨーカドーでは、「にんじん」と書かれているのです。どういうことなのか。津山と姫路にのみあらわれた偶然だったのでしょうか。


東京へ戻る途中で、京都の宇治にも寄ってきました。主目的はアニメの舞台探訪でしたが、もちろんスーパーは確認します。*3
JR宇治駅近くのスーパーでも、やはり「洋にんじん」でした。そうだろうそうだろう、満足して京都へ向かいます。

京都駅の近くには(あまり京都という街のイメージとは合いませんが)、大きなショッピングモールがあります。ここにも行きたい。歩き通しの旅程で、脚が悲鳴をあげていましたが、どうしてもイオンモールKYOTOの野菜売り場でニンジンを見たい。
はたしてそこには、ひとつの答えがありました。


スーパーが付けた値札には、「にんじん」とあります。一方で、ニンジンの包装紙には「西洋にんじん」と書いてあり、横にはJA京都の文字も見えます。つまり、京都の生産者にとっては「ニンジン」といえば西洋ニンジンのことではなく、京人参ではないものについてわざわざ「西洋ニンジン」と表記するということなのでしょう。しかしイオンモールイトーヨーカドーのような全国展開するチェーン店では、商品名称はすべて統一されていて、だから関西でも「にんじん」表記になっているということなのでしょう。


いかがでしょうか。この面白さがうまく伝わるものかどうかわかりませんが、私はとても面白いと思っているのです。
私たちが当たり前のことだと思っていた「にんじん」や「キノコ」の売られ方が、同じ国の中でこんなにも違っている*4。それは、長野のスーパーではイナゴの佃煮が売っているとか、津山のスーパーでホルモンが売っているといったこと以上に興味深いことのように思うのです。
みなさんも、遠くの街へ行く機会があれば、食品スーパーを覗いてみてください。その街に住む人々がどのような当たり前を生きているのか、そして自分がいつもどのような当たり前を生きているのかを、見つけることになるかもしれませんよ。

*1:総務省統計局の家計調査ランキングが面白い。( http://www.stat.go.jp/data/kakei/5.htm )「生鮮食品」のファイルから、「生しいたけ」と「他のきのこ」の欄を見てみよう。「他のきのこ」ランキングに注目すると、長野市は消費量1位となっている。次に「生しいたけ」を見ると、長野の生しいたけ消費量は、なんと下から2番目である。このデータから考えられるのは、長野においては生しいたけなど普通のキノコは眼中にあらず、生しいたけ以外のキノコを食べまくっているということだ。なお、山形や新潟も、長野と同じ傾向が見られる。那覇は「生しいたけ」も「他のきのこ」も最下位であり、キノコ食の習慣自体があまりないのだろう。富山は生しいたけもそれ以外のキノコもよく食べるようだ。(平成24年平成26年平均の資料を参照)

*2:東津山駅そばの地元系スーパー2店舗では、たしかにホルモンが充実していた。しかし津山駅近くの天満屋の食品フロアには、ホルモンがなかった。YouMeマート津山店へは立ち寄れなかったのが悔やまれる。

*3:観光地は住宅街と比べると、やはり食品スーパーは駅から遠く、規模も小さくなりがちだと感じる。

*4:他には、油揚げの形状、食パンの切り数、鮮魚の産地、調味料のバリエーションなどに着目するのも面白い。