かつて『ジーンダイバー』というアニメがあった
1993年に小学生だった私にとって、NHK教育で「天才てれびくん」放送開始されたことは特別なできごとだった。テレビのなかで、自分と同世代の子どもたちがたくさんいて、奇抜な衣装を身にまとい、不思議なCG合成といっしょに、なにやら面白そうなことをしている。「天才てれびくん」は小学生の私にとっての憧れの象徴であった。
天才てれびくんの虚構構造
放送開始とともに始まった番組内コーナーに『恐竜惑星』があり、その翌年には『ジーンダイバー』があった。実写とアニメを組み合わせた構成はとても斬新で、まさにバーチャルリアリティを叩きつけられているような視聴体験だった。なにしろ、直前のコーナーで別の子役たちとともにワイワイ喋っていたうちの一人が、『恐竜惑星』が始まるとアニメーションになって恐竜と追いかけっこしているのだ。登場人物は『恐竜惑星』というコーナーのなかで、アニメーションと実写を行き来する。
「天才てれびくん」という番組全体が、クロマキー合成を基調にした虚構世界を舞台にしている。その虚構世界の中に「『恐竜惑星』実写パート」があり、そして『恐竜惑星』世界の中での現実として「バーチャル空間=アニメパート」がある。実写パートにいる子役にとって、アニメパートは同一世界線でのできごとである。また「天才てれびくん」内において、(少なくとも番組開始当時は)(私の記憶の限りでは)「恐竜惑星」という物語は同一世界線でのできごとである。さらに、「天才てれびくん」内には、視聴者がリアルタイムで参加する電話ゲームのコーナーもあった。こうして仕組まれた虚構の多重化は、「恐竜惑星」の世界がほんとうに現実と地続きになっているかのような印象を与えた。
もちろん小学生の私だって、ほかのテレビドラマを観たことはあったはずだし、大河ドラマに出ていた俳優がたとえばクイズ番組に出ているのを観たこともあっただろうけれど、それとはまた少し話が違う。どこまでが虚構でどこまでが現実なのか、そんなことを小学生の私は言語化はできなかっただろうけれど、強い衝撃を受けていたに違いない。
『ジーンダイバー』
『ジーンダイバー』は名作である。詳しいあらすじなどは、Wikipediaの記事を参照されたい。
簡単かつ大胆にネタバレを言えば、仮想タイムマシンが存在し、歴史改変が可能になってしまった世界で、歴史を変えようとする勢力と歴史が変わらないようにしたい勢力が争う、というのが前半のお話。後半では、じつは地球の歴史には外部からの介入者がいて、生命の進化は介入者によって仕組まれたものだったことが判明する。しかもその介入者にとっては人類は失敗作であったため、遡って生命進化をキャンセルして無機物が知性体となるように歴史改変を行おうとしている……というのが終盤。なかなかハードなSFだ。
最後の敵(進化への介入者)、「スネーカー」と主人公の最終話の対話は、かんたんな善悪の対決ではない。絶対にわかりあうことのできない異なる起源をもつ知性どうしが、自身の願望のために他者を排除することを選ぶのか、互いを尊重して共存する道を選ぶのか。我が主人公は、自らの体内に入りこみ自己増殖を続けるマイクロマシンを受け入れるかわりに、全宇宙の有機知性体が自我を持ち続けることの許しを得る。絶対的な死を受け入れることにも似た、しかしそれ以上に巨大な決断。思い出していただきたいが、『ジーンダイバー』は小学生向けのテレビ番組のなかの1コーナーである。
『ジーンダイバー』の主人公である「唯」は、その第一話において傷ついた動物を助け、手当をする。このとき動物に噛まれた傷がきっかけとなり、すべての物語が駆動していく。最終話近くで唯は、スネーカーによる精神攻撃を受ける(「エヴァ」を連想するが、そのテレビ放送までにはまだ2年ほどある)。極限状態の幻影のなかで、唯は自己犠牲をともなって小動物を助ける。この行動がスネーカーを困惑させ、反撃へとつながっていく。我が主人公は一貫して、やさしさ・思いやりによって駆動されていて、その判断が最終的に宇宙を救う。一貫性のある登場人物が描かれることで物語の説得力は増し、またジュブナイルとしての要請にも応えている。
名作である。
まどマギを知るものとして
私たちは、『魔法少女まどか☆マギカ』を知っている。人類の歴史には進化への介入者がいて、人類とそれとの関係は、家畜と人類の関係のようなものであった。最後はひとりの少女の自己犠牲的な選択によって、宇宙が書き換えられる。こうしてみると、よく似ているように思える。親しみやすい絵柄をつかってハードな物語を描いている点も、またよく似ている。
せっかく2017年に生きているのだから、この2つの物語を並べたり重ねたりしながら考えてみたいところだ。現在の私の手には負えないが、時期を待ちたい。
『ジーンダイバー』は有名な作品ではない。しかし、歴史に残るべき作品だろう。残念ながら作品へのアクセス難易度は高い。文章を残すことで少しでも貢献できればと思う。
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