流れもあえぬ

こんな夢を見た。

急な坂道を登りきる少し手前に、彼女がいた。強い風が吹いて、紅葉の赤い葉が降り注ぐ。
『すごい、花吹雪』
紅葉なんだから、花吹雪じゃないだろ。
近づいて、彼女の名前を呼ぶ。何度も呼び続けてきた名前。いつからか、呼ぶことはなくなってしまった。彼女が振り返る。『遅かったね』
僕たちは並んで坂を上っていく。道は、神社の境内へ続いている。赤い鳥居をくぐった先には、砂利を敷き詰めた広場。僕たちは並んで歩いていく。風が吹いてきて、紅葉が舞う。
お参りしていこうか、と僕が言ったときには、もう彼女の姿は消えていた。また、何も話せなかった。息をついて空を見上げると、はらはらと雪が舞い始める。


それから、眼をあけて、枕もとの携帯電話を手に取った。アラームが鳴るまでには、まだ40分ある。夢に出てきた女性のイメージが残っている。セットしてあったアラームを解除して、メールを打った。

件名:おはようございます
本文:久しぶり。元気にしてますか?


そこまで書いて、自分の行為のくだらなさに気付き、寝ることにした。眠りに落ちる直前に、もう一度携帯を開いて、打ち掛けだったメールを保存した。アラームは解除したままにしておこう。