ミッドウェー海戦で生き残った男の話

親戚の老人に戦争の話を聞きました。
ミッドウェー海戦のとき、乗っていた空母が爆撃されて沈んだのだそうです。
私は歴史には疎いので、ミッドウェー海戦がどんなものなのか知りませんでしたし、ネットを検索してみても情報量が多くてよく分かりません。しっかり理解するためには時間がかかりそうですので、聞いた話だけを書きます。

話を聞いたのは、今年90歳になるおじいさん。海軍にいたらしい。
ミッドウェーで「蒼龍」という空母の、機関室にいた。
昼飯時。にぎりめしを食べ終えると、班長が便所に行くという。
「ついでに飛行甲板で涼んでくるわ」
自分も着いていくことにした。
機関室は暑い。300度の高圧蒸気が吹き出ていて、室温は45度くらいある。
甲板で涼んでいると、向こうの空に、黒豆を散らしたような飛行機の群れが見えた。
「おい、あれは味方か?」


「敵機だー!!」


慌てて持ち場に戻ろうとする。
機関室は船の底の方だ。階段を駆け降りたときには、もうアメリカ軍の爆撃が始まっていた。
飛行甲板が燃え上がり、崩れ落ちる。
機関室には、崩れ燃えさかる甲板の下をくぐらなくては行けない。
爆撃は続く。
空母にある自機の燃料や爆弾に引火して、爆発が起こる。
あちこちから火の手が上がる。
夢中で海に飛び込んだ。
1時間ほど泳いだだろうか。駆逐艦が救助にきた。
縄ばしごを下ろされた。
「早く登れ!」
腕に力が入らずなかなか登れないが、なんとか助かった。
救助されてしばらくすると、大きな爆発音。
またアメリカ軍か、と思ったが、
「蒼龍が沈む!」


爆発の直前に海に飛び込み助かった人間が5人ほどいた。
機関室から出られなくなり、船底に海水を張って、熱気から逃れていたらしい。
船底に逃げたはいいが、今度はそこから出られなくなった。崩れた飛行甲板の鉄板が、ハッチを塞いでいた。
もう出られないものと諦めかけたが、一人がもう一度挑戦した。
手では持ち上がらなかったが、背中で思いきり押し上げた。わずかに隙間ができた。
「出られたぞ、続け!」
しかし続く者はなかった。
なぜなのかは分からない。
出られた者は海に飛び込み救助された。船底に残された者は爆発に巻き込まれた。


……

Wikipediaによれば、ミッドウェー海戦で「蒼龍」が沈んだのは1942年6月5日。
ミッドウェー海戦時の蒼龍に乗り組んでいた実員は不明だが、蒼龍の定員は1,103名で、柳本柳作艦長ら准士官以上35名、下士官兵683名、計718名が戦死した」。


老人は、昼飯のあと、班長に続いてトイレに行かなければ助からなかっただろうと話していました。運がよかったのだと。
そしてこの3ヵ月後、ガダルカナル島で再び生死を分ける体験をしたそうです。この話も書きとめておいたのですが、Wikipediaの記述と照らし合わせてもよく分かりません。もう少し資料に当たってみます。