ちょっとした巡り合わせの話

コンサートを企画している。このコンサートは私が主催していて、演奏家やホールとの調整、宣伝、当日の運営など、全般的に携わっている。
チラシは、知人に作ってもらった。
このチラシに、東京からつくばへの行き方が記載されている。「●電車の場合 つくばエクスプレス…… ●常磐自動車道の場合…… ●高速バスの場合 東京駅八重洲南口高速バス3番乗り場より毎時15分間隔で運行中「つくばセンター行き」……。

    • -

先日、入籍した。
友人たちを呼んでの披露宴はすでに行ったが、家族を集めての結婚式は、5月に茨城県で行う予定だ。
当初は両親・兄弟・祖父母を招くつもりだった。だが、祖父は膝が弱っており、東京駅からこちらまで何度かある乗り換えなどで歩くのが大変だということで、出席を断られてしまっていた。祖父が結婚式に参加しないというのは非常に残念なことだ。いつのまにか、それほどまでに足腰が弱っていたのかと驚いた。

    • -


コンサートのチラシは昨年末に完成していたので、正月に実家に帰るときに少し持っていった。高校の吹奏楽部の同窓会があり、そこで部活の顧問だった先生にチラシを渡そうと思ったのだった。
先生は、今回のコンサートのフルート奏者・渡瀬氏の、高校時代の先輩に当たり、私のいた吹奏楽団のかつての団長でもあったそうだ。渡瀬氏が浜松でコンサートを行ったときに、私に聴きに行くように薦めたのは彼だった。そのときは、渡瀬氏と私がこのように長い付き合いになるとは、誰も想像できなかっただろう。
チラシは、実家にも1枚置いていった。開催は木曜日の夜であり、私が演奏するというわけでもなく、聴きに来ることはまったく期待していなかった。ただ、息子は実家を離れて、仕事のかたわら、こういうこともやっていますよと知らせておこうという程度のことだった。
このチラシは捨てられることなく、しかし特に大切に扱われることもなく、実家の応接間のピアノの上に置かれたようだ。


応接間のピアノの上に置かれたチラシが、祖父の目に留まった。会場は、つくばカピオホール。なぜ、つくば市での演奏会のポスターが、静岡の我が家にあるのかと祖父は思い、そして私のことを思い出しただろう。
チラシのいちばん隅に、「問い合わせ先」として私のメールアドレスと電話番号、名字が記載されている。
電話帳で、私の携帯電話の番号と、チラシの番号を照合する。おお、うちの孫じゃないか、頑張っているなあと思う。
チラシの裏面を見ると、つくばへの道案内が書いてある。高速バス。なるほど、高速バス。バスであれば、駅構内での移動による足腰への負担の心配はないのではないか。そうか、これなら孫の結婚式に出席できるぞ。

    • -

ちょっとしたことの積み重ねの、巡り合わせだ。
祖父がたまたまチラシの携帯番号に目を留めなければ、そして交通アクセスの記載までを丹念に読まなければ、高速バスのことは思いつかなかっただろう(私も、家族も、高速バスのことを指摘することはできたはずだが、しかし実際のところ、そんなことは思いつかないものだ)。
チラシに高速バスについての記載がなかったら、こうはならなかった。そして、もし私がチラシを自分ですべて作成していたら、おそらく高速バスについては書かなかっただろう。つくばエクスプレスの方が便利だから、それだけ記載しただろう。
チラシを実家に郵送するようなことは考えなかったから、年末までにチラシが完成していなければ、家族はこのコンサートのことを知らないままだっただろう。
高校の同窓会に出るつもりがなければ、チラシを持って帰ることもなかったかもしれない。もちろん、顧問の先生がコンサートに興味があると思わなければ、同窓会にチラシを持っていくことはなかった。


そういう積み重ね、巡り合わせのなかで生きている。そんなことは、いまさら言われなくても分かっていたはずなのだけど、ときどき思い返してみると、ああ、いろんな偶然に感謝しなくてはいけないのかもしれないなあと思う。