ウェンディーズ閉店によせて
ハンバーガ・チェーン店「ウェンディーズ」が、2009年12月31日、日本での営業を終了する。
ウェンディーズは、私の人生のなかで、やや重要な場所であった。今回の突然の営業終了自体については残念だとも悲しいとも思わないが、私が感慨を覚える場所がひとつ減ってしまうのは、やはり寂しいと思う。
私がウェンディーズでアルバイトをしていたのは、大学を辞めることにした秋から、次の年の8月までの、1年弱の間だった。少なくないことを学んだと思う。
最初の数ヶ月は、ずいぶんつらかった。感じの悪い店長にスパルタで仕事を教えられたが、どうやら私にはハンバーガを作るのは向いていないようだった。それでもなんとか続けるうちに、パートのおばさんやアルバイトの学生とも少しずつ仲良くなり、仕事もできるようになった。そのうちレジも打たせてもらえるようになり、朝の開店作業を一人で行うこともできるようになった。「成長」という体験をさせてもらった。スタッフの勤務シフトや、材料などの発注も任されつつあった。最初が役立たずだった分だけ、店のために働けるのは嬉しかったし、楽しかった。
ウェンディーズを辞めたのは、少し不幸な出来事だった。
当時は、コンビニエンスストアで午前0時から朝6時までアルバイトをし、6時半から9時か10時までウェンディーズで働いていた。朝勤務のスタッフが長期休みに入っていて、私は週5日ペースで開店作業をしていた。私にとっては、なかなか厳しい状態だった。
ある朝、私はいつものように一人で店に立っていた。たぶん、特に疲れていたのだと思う。そこへ、「偉い人たち」がお客として来店した。私は、彼らが満足するような接客を行うことができなかった。「偉い人たち」は、出社した店長に、私をトレーニングすること、それで改善されなければクビにするよう告げた。いまにして思えば、彼らの言い分はもっともである。
かくして、私は屈辱と挫折を味わった上で、ウェンディーズのアルバイトを辞めた。
「大きな声を出そうと頑張っても、他人から認められるだけの声量が出ない」ことと、「自分が辞めたらこの店は回らなくなると思っていたけれど、実際には大丈夫だった」こと。これらは悲しく悔しい思い出としてしばらく残っていたし、いま思い出してみても、やはり苦しく思う。
けれども、この別れは、決して完全に不幸なものではなかったであろうと思う。
ウェンディーズを去ったのは3年半ほど前のことだが、半年に1度程度は食事にいき、当時のことを思い返していた。楽しかったこともあった。ラストは最悪だったけれど、その別れによって成長することができたのかもしれない。ウェンディーズに行くことによって、前へと進む決意を新たにすることもできたような気がする。そうやって感傷的になるための場所だったウェンディーズが閉店してしまうのは、少し寂しい。
もしかしたら、今回の閉店は私にとって、さらに前へ進むことを促しているのかもしれないとも思う。変わらないものなどはないのであって、私は次々に進んでいく必要がある。
ウェンディーズに関係のあったすべての人たちが、新しい場所に出会えることを願おう。