まず、ご飯より始めよ(生き延びるための自炊入門)

人は誰でも食べずには生きていけないが、何をどのように食べるかについては様々な選択肢がある。健康で文化的な生活を維持するためには、食事の用意を自分で行うことが重要だ。しかし、日々の炊事を運用することは予想以上に難しい。
自炊をするときに重要なことは、続けることだ。できるだけ毎日のように炊事をすること。これが自炊のコツだ。
初期投資コストの回収、日々の食材調達コストの効率化、各種炊事スキルの向上、といった点が、毎日のように炊事をするべき理由である。もちろん、初心者にはそれこそがもっとも難しい。
できるだけ続けていくためにも、まずは簡単なところから始めよう。

一汁三菜は目指さない

「一汁三菜」という言葉がある。ご飯、汁物、主菜、副菜A、副菜Bで構成された食事であり、定食屋の献立では実現されていることが多い(ご飯、味噌汁、メインのおかず、ちょっとしたサラダ、ちょっとした漬物、といった具合に)。
自炊入門者は、いきなりそんなものを目指してはならない。一汁三菜はいずれ考える目標として、まずは主食から始めよう。ご飯から始めるのだ。

ご飯があればなんとかなる

ここで「ご飯」というのは、米のことである。自炊入門において主食は米であり、パンや麺類ではない。炊事を続けていくという目標を第一に考えたとき、主食は米が基本となる。
日本人は、米を主食にすることに慣れている。この何十年間、ずっとそうしてきているから、参考文献には事欠かない。ほとんどの料理本は、ご飯を主食にする前提で書かれていると言っていいだろう。調達もとても簡単だ。米もご飯もどこにでも売られている。

ご飯を主食とした、手軽に準備できる献立例を3つ示す。

  • ご飯、レトルトカレー、サラダ
    • レトルトカレーを電子レンジで温めている間に、カット野菜のサラダを皿に盛り付け、マヨネーズを少し掛ける。物足りなければ、ゆで卵でもあると嬉しい。
  • ご飯、野菜炒め、インスタント味噌汁、鯖缶
    • 野菜炒め用のカット野菜を買ってきて、フライパンで炒める。サラダ油と塩コショウでも十分だし、醤油やソースで味付けしてもいい。インスタントでいいので味噌汁は用意したい。鯖缶の代わりに、コンビニのフライドチキンでもいい。
  • ご飯、アジの干物、インスタント豚汁、冷奴
    • アジの開きを買ってきて、フライパンで焼く。クッキングシートを敷いておくと片付けが簡単に済む。味噌汁はインスタントでいい。冷奴の代わりに、納豆でもいいし、キムチでもいい。

自炊入門者にとって、「中食」は重要な武器である。中食は、「ご飯のおかず」を想定して売られていることが多い。カップラーメンのお供にしてもいいが、それでは塩分過多だ。アジの干物と食パンはたぶん合わない。ご飯を用意することが重要なのだ。

「サトウのごはん」を使おう

とにかく、自宅にご飯がある状況を途切れさせないことだ。
炊飯器、冷蔵庫、電子レンジの3点がすべてあるのなら、炊飯をするのもいいが、これはあとでいい。入門者のうちは、レトルトパックを買おう。いわゆる「サトウのごはん」だが、様々なメーカーから様々なランクの商品が販売されている。

とりあえず、20食分くらいまとめて買ってしまう。残り5食くらいになったら追加で買う。
炊事を毎日続けることが重要だと認識したとしても、自炊を始めたばかりの時期には難しい。毎日ご飯を炊飯器で炊くのは、それだけでとても大変なことだ。続けるのを邪魔するハードルはどんどん下げていく。レトルトパックご飯は腐らない。備蓄がきく。備蓄がきくものを主食にすることで、余裕が生まれる。
炊飯器の炊きたてご飯はたしかに美味しいが、準備も片付けもそれなりに面倒である。炊事する気力がなければ、外食にしてもいい。やる気と時間がたっぷりある日なら、手の掛かるものに挑戦するのもいい。どちらにもいけるために、ひとまず基本の主食はレトルトパックご飯に固定しておく。

買ってきて、作って、食べて、片付けるまでが自炊

自炊はたくさんの作業に分解できる。どうしても「調理する」部分に注目してしまうが、実際のところ「食材を調達する」「食材を適切に保管する」「調理器具を片付ける」「皿を洗う」「生ゴミを捨てる」など、自炊特有の作業はたくさんあり、そのどれもが初心者には難しい。
レトルトパックご飯のいいところは、いま挙げた5つすべてが簡単なことだ。Amazonでもコンビニでもスーパーでも買えるし、常温で保管できる。洗い物は発生しない。空き容器を捨てるのも気軽だ。
自炊するということは、自宅での生活の一部を、自炊に充てるということである。入門者のうちは、自炊生活とはどんなものなのか、ということを覚える段階だ。この段階は、省略できる部分は省略する。その分、お金は多少余分に掛かるかもしれない。それは投資である。

米を炊く場合の注意点

続ける自炊生活という観点での、炊飯の注意点を2つ挙げる。
・多めに炊いて冷凍する
時間の余裕があるときに、多めに炊く。そして冷凍する。冷凍用容器は、スーパーやドラッグストアなどでも買える。

キチントさん ごはん冷凍保存容器 一膳分 250ml 5個入り

キチントさん ごはん冷凍保存容器 一膳分 250ml 5個入り

食事のたびに炊飯するのは面倒だし、時間も掛かる。冷凍用容器も洗わなければならないから、洗い物が増えるというデメリットはある。
・無洗米を使う
炊事において、すべての要素を最高にすることはできないと考えるべきだ。無洗米を選ぶことで、失ってしまう要素はあるだろう。多少は美味しさは損なわれるかもしれないし、値段も少し張るかもしれない。それでも、無洗米以外の選択肢はない。
もし、炊飯器を所有していない状況からスタートするのであれば、炊飯器ではなく鍋やフライパンでの炊飯を検討するのもよい。基本はレトルトパックご飯とし、余裕がある日はその日の分だけ鍋で炊く。炊飯器は、必須調理器具ではない。

次の選択肢としての冷凍うどん

保存性の高い主食としては、乾麺がある。スパゲッティ、そうめん、ラーメン(袋麺)が、調達しやすく保管も簡単でいいだろう。
スパゲッティは、レトルトのソースが多種売られているので便利だ。入門者を卒業したら、使い余った野菜と備蓄のベーコンなんかを使ってオリーブオイルスパゲッティを作ることもできるだろう。ただ、スパゲッティというのは副菜やスープが付けにくい料理だ。ご飯を中心にするときほどには、栄養バランスを組み立てにくいかもしれない。

レトルトパックご飯の次のステップとして、冷凍うどんを提案する。
うどんは、具のバリエーションがきく料理だ。主食とスープとメインのおかずの3つを兼ねているから、追加でひとつ副菜を添えられるとさらによい。
冷凍うどんの利点は、もちろん保存性である。冷凍庫に3食分ほど常備しておけば、疲れて帰ってきた日でもコンビニ弁当を買わなくていい。
小鍋に湯を沸かし、冷凍うどんを入れてしばらく茹で、めんつゆで味付けする。具材は、卵、乾燥ワカメ、油揚げ、冷凍のほうれん草、市販のコロッケなど。野菜があれば、適当に入れてもまず失敗はしない。もっと簡単に、電子レンジで温めた冷凍うどんにポン酢と七味唐辛子を掛けるのでも十分だ。これなら鍋も使わないで済む。
『終電ごはん』という料理本では、冷凍うどんレシピにかなりのページを割いている。

終電ごはん

終電ごはん

冷凍うどんは、味のごまかしが効きやすいという利点もある。日本人の味覚は、冷凍ご飯やレトルトパックご飯に対しては厳しい評価をしてしまうかもしれない。うどんに対しては、味のこだわりが少ないのではないか。

自炊生活に慣れて、食材調達サイクルが安定してきたら、生麺タイプのうどんも使っていこう。こちらの方が調達単価が下がる。

ご飯より始めよ

自炊をするときに重要なことは、続けることだ。できるだけ毎日のように炊事をすること。これが自炊のコツだ。
「食事」というプロジェクトにおいて一番重要な目標は、「食べるものが用意できる」ということだ。外食でも中食でもなんでも、「食べるものがある」ことが重要であり、味や費用や栄養はそのあとの問題になる。

食事の中心には、ご飯がある。ご飯を確実に調達し続けることこそが、自炊入門の第一歩である。