『魔法少女まどか☆マギカ』はテレビ版を観るといい

まどかマギカ』は、重要な創作として10年以上の期間をもって鑑賞され参照される作品であるような気がします。根拠はありません。これは、『風の谷のナウシカ』、『攻殻機動隊』、『新世紀エヴァンゲリオン』あたりと同様の扱われ方をするのだろうなという意味です。これも根拠はありません。

この作品を観ておくべきかどうかと尋ねられたら、私はこの作品が好きだと答えます。私は村上春樹の小説が好きですが、彼がもしノーベル文学賞を取ったとしても、彼の小説を「読んでおくべき」とは言えないでしょう。私たちのだれもが一度は読んでおくべきなのは日本国憲法くらいですし、観ておくべき映像について私はアイディアがありません。

では、「まだ観たことがないのだが、テレビ版と劇場版のどちらを観ればよいか」と尋ねられたらどうか。これについては、私は「テレビ版を観るべきだ」とはっきり答えます。「もしテレビ版を観て十分に好きだと感じたら、劇場版を観てもいいでしょう」とも言えます。

まどかマギカ』は、2011年1月〜3月にいわゆる「深夜アニメ」としてテレビ放送されました。2012年10月に公開された劇場版は、テレビ版の総集編であり、物語についての大きな変更はまったくありません。絵の描き直しや、声の撮り直しは大幅にあったようです。
まどかマギカ』の魅力は、ストーリーにあると思います。他にもたくさんの魅力があり、異空間の表現については特筆すべきだと思いますが、とにかくストーリーがすごいのです。このすごさは、毎週テレビを観ているのに似たフォーマットを選んだときに、いっそう感じられるはずです。
劇場版には、テレビ版からカットされたエピソードもありますが、それによって劇場版から見始めた人が困惑することはないと思います*1。ただ、劇場版後編の中盤で『コネクト』というテレビ版オープニング曲が挿入されますが、ここの映像は、劇場版だけを見ると意味が取れないものでしょう。このシーンは残念に思いました。

私が過去のことについてインターネットで追いかけてそれを知るとき、知りたいことは「それをリアルタイムで体験した人はどのように受け止めたんだろう」ということです。『エヴァ』の最終話を夕方のお茶の間で見るという体験は、10年後にWikipediaを読んでも追体験できません。
おそらく、2011年3月の震災についても同じことが言えるでしょう。20年後に「あの地震、すごかったんだよ」と言っても、当時を知らない若い人にはわからないことでしょう。ですから、「『まどかマギカ』のテレビ放送の最終2話は、震災によって放映が延期された」ということがどんな印象を当時の視聴者に与えたのかを追体験することもできないでしょう。できないけれど、これは記録しておきたいことだと私は感じます。そして、後世の新しい観客に「うわ、ここで何週間も待たされたの?っていうか娯楽アニメなんて場合じゃないって世論になってたの?うわー。。。」と感じてほしいと思います。

現在公開中の劇場版を映画館でみることは、この作品をよく好んでいて、この作品に対してお金を積極的に支払いたい人には勧めたいと思います。そうでない人には、テレビ版をレンタルして観ていただくか、劇場版がレンタルに出るのを待っていただくのがいいと、私は思います。でも、好きな人はちゃんとお金を払いましょう。新劇場版の製作費が潤沢に使えるようになってほしいですからね。

*1:攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Individual Eleven』は、テレビ版の総集編映画だそうですが、これを観て私は困惑しました。なぜとつぜん童貞のはなしになったの。