むしろ大人に読ませてみたい『中高生のための「かたづけ」の本』

片付けに関する書籍はたくさんある。
私にとって、片付け精神論のベストは『人生がときめく片づけの魔法』であり、片付け技術書のベストは『片づけの解剖図鑑』だ。
岩波ジュニア新書から『中高生のための「かたづけ」の本』が、数ある片付け指南書群のなかへ登場した。

タイトルの示す通り、本書は中高生のために書かれている。中高生とはどういう存在だろう。中高生は、家計の主体ではなく(生活費を稼ぐ立場でなく)、毎日学校へ行くことが生活の中心にあり、これから自立者になっていく段階の存在である。このような存在である中高生が、いまのうちから「かたづけ」に対しての訓練を積んでおくことは、その後の人生において重要であると本書の著者は考えている。まったくそのとおりだろう。
片付けには「練習」が必要だと著者は主張する。片付けとはそもそも練習することなく簡単にできるような行為ではない。ところが、片付けの練習を体系的に学ぶようなことはない。家庭でも「早く片付けなさい!」と叱るばかりで、具体的な手順をていねいに教えたり、何度も練習をしたりということはあまりないだろう。
片付けの技術というのは、それほど複雑なものではない。これまでのたくさんの書籍で書かれていることと、本書のそれは、あまり違わないように感じた。
やはり、片付けというのは精神論である。『人生がときめく片づけの魔法』がセンセーショナルに提示した「物質に対して精神的充足を感じるかどうかが、片付けの本質である」という考え方は、本書でも継承されていて、「人生」や「自分で選択する」というような言葉がしばしばキーワードになっている。
本書は、短めの興味深いエピソードをいくつも積み重ねながら、中高生に届きそうな文章で片付け精神論を提供している。その意味で、良書である。
本書の特に素晴らしいところは、終章のさらにあとに掲載された「付録」の章だ。『親子でかたづけ上手になろう!』というタイトルの付録章は、子育てをする親に向けて書かれたものだが、そういうスタンスの文章こそ中高生が読みたいものではないか。親の視点や、他人が親へ向ける視点などを含めて世界を複合的に捉えることで、中高生の精神は落ち着くもののように思う。
部屋を片付ける気のない中高生にも、部屋を中高生に片付けさせたい大人にも、ちょっとした学びがあるだろう。大人の方が学ぶべきことは多いかもしれない。

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