黒塗りメイク事件に思う、ももクロとモノノフの共犯状況について

ももいろクローバーZの熱心なファンである私にとっては残念な話題がある。
人種差別と批判された「ももクロ」の「黒塗りメイク」 米国の学生はどう反応したか? - 弁護士ドットコム
上掲の弁護士ドットコムの記事には、ももクロの写真自体は載っていないが、少し検索すればすぐに見つかる。過剰反応ではないかとも思ったのだが、写真を見るとわりと弁解できない黒塗り具合だったので頭を抱えた。

まとめよう、あつまろう - Togetter
この togetter で丁寧に論じられているが、正直に言って、けっこう難しい。

「顔の黒塗りが差別」というのが“グローバルスタンダードな考えだから”ノるのではなく、“現行のアフロ文化圏と日本文化圏が付き合う上では、今は他の人種差別の歴史に学びつつノる方が即効性があり望ましい”からノる、というような回路であってほしい

https://twitter.com/tricken/status/574960760146649088

この事件を簡単に見てしまうと、「黒塗りメイクにすると黒人差別にあたると言って激怒する人々がいるようだ、そんなつもりで黒塗りにするわけじゃないんだけど、厄介だからおとなしく自粛しておこう」という教訓しか得られないかもしれない。


ももクロは、わりと気軽に仮装をする。先日の「徹子の部屋」には、メンバー全員がタマネギ頭で出演している。昨年レディ・ガガと共演したときには、メンバーのひとりは顔を金色に塗った。今回の黒塗りメイクも、まったく自然な流れとして行っただろうと思う。
実は2012年にも、ももクロのメンバーのひとりは黒塗りメイクをしてライブで歌っている。

有安杏果のソロでは、ゲストの在日ファンクが生演奏で参加した。有安はアフロヘアに墨塗りというファンキーな出で立ちで、浜野謙太書き下ろしのファンクナンバー「教育」をパワフルに歌い上げた

しげるもデュークも指原も!ももクロ横アリ初日てんこ盛り - 音楽ナタリー

当時のことを私は知らないが、おそらく問題にはならなかったのだろう。当時はそこまでトップアイドルというわけでもなかっただろうし、テレビで紹介されたわけでもない。
今回の「ミュージックフェア」では、「トップアイドルが」「地上波テレビで」黒塗りメイクをしたところが特に問題を大きくしたのだと思う。
いまや、ももクロはトップアイドルである。相応の振る舞いが求められるということだと思う。


私があまり好きではないももクロのネタに、メンバーのひとりの構音障害を笑うというものがある。「滑舌が悪い」と言って笑うもので、内輪ネタ的には楽しめるものではある。ネタ楽曲の歌詞にまでなっている(「滑舌悪いの生まれつき ソロパートを削んなよ!」と本人が歌うのだが、なんなんだこの自己言及は。こういうところがももクロの(というかアイドルの)魅力のひとつだろう。)。
しかし、私自身も軽い構音障害があり、shi と chi と ki の発音があまりうまく使い分けられないのだが、その立場からすると、この滑舌いじりは不愉快なパートでもある。おそらく、私以外にも、滑舌ネタで微妙な気持ちになるモノノフは少なからずいるだろう(モノノフとは、ももクロの熱心なファンのことだ)。


実はもうひとつ、ももクロにとって悪い話題がある。近隣アジア諸国に対して排斥的な思想をもつ人物が、自身の著書をももクロのメンバーに渡し、その書籍を持たせた状態で写真を撮り、SNSにアップロードした、というものだ。まどろっこしい説明をしたのは、当該記事等にリンクを張る気がないためだ。
中国や韓国に対して、排斥的な思想を持つこと自体についてを否定することは、私はしない。そういう考え方の人もいるだろう、それはそれでいいだろうと思う。仲良くなりたくはないが。
ただ、そういう思想をアイドルたちが持っているかのように見えてしまう状況をつくることは、そのアイドルたちの評価にとっても悪いものであるし、もっと広い視界で考えても、かなり悪いものであるだろう。


ももクロはもはやトップアイドルであるが、彼女たちはまだ20歳前後の若者であるし、学校の勉強はそんなにしてきたわけでもない。難しいことはよくわからないだろう。難しいことがよくわからないからと言いながら、顔を黒く塗ったり、いじめを増長させるようなパフォーマンスをしたりするのであれば、それは周りが止める必要がある。PTAみたいで馬鹿馬鹿しいとも思うが、そういう役目の装置は必要だろう。


アイドルは、ファンとの共犯関係によって輝いている。ファンがアイドルを応援するから、アイドルは存在できる。
ももクロはトップアイドルになってしまった。おそらく、以前と同じような共犯状況では、さまざまな齟齬が生じることになるだろう。
いちファンとして、彼女たちの前途が素晴らしいものであってほしい。そのためにも、ときには面倒な話もしていきたいと思う。


ところで『青春賦』のMVが完全に泣かせにきていて素晴らしいです。