大切な店で買い物をしよう

秋葉原の「古炉奈」という喫茶店のこと

「オタクの街」秋葉原にあって、オタク文化に染まらず伝統を守ってきた喫茶店が、ついに負けたのだという。私は実際にその店に行ったことはなく、Twitterはてなブックマークで話題になっていて知っただけだが、「古炉奈」という喫茶店が閉店したらしい。このページを見ると、「古炉奈」が秋葉原には珍しい純粋な喫茶店であり、この店が好きな人たちがいたことと、閉店後は「(アニメやゲームに登場する)中世ヨーロッパの世界観をコンセプト」とした「アキバっぽい」飲食店にリニューアルしてしまうのを残念がっている人たちがいることがわかる。

つくばの とある喫茶店のこと

私が住むつくばにも、変わってしまった喫茶店がある。上の例のように閉店リニューアルで大きく変わったわけではなく、まだ営業している店なので、名前は出さない。
落ち着いた雰囲気の喫茶店で、「コーヒー1杯で文庫本1冊分いてもらってもいいんですよ」と言ってしまうような店だ。その雰囲気はいまも数年前もそれほど変わりはない。ただ、出てくる料理やコーヒーの質が落ちてしまった。
開店したばかりのころ、その店ではコーヒーにはミルクが付いていた。プラスティックカップに入ってコンビニなんかでも安く売られているようなコーヒーミルクではなく、陶器の小さなミルクポットに多めに注がれたミルクだった。中身は普通の牛乳だったのだろうが、手軽な代替品を使わず、客ごとにミルクポットにミルクを入れる手間に感動したものだった。ガムシロップも同様で、プラスティックカップに入った市販品ではなく、小さなガラスのポットに入って提供されていた。
いつのころからか、それが普通のミルクとガムシロップに変わった。そしてそのころから、料理の質が少し落ちた。たくさん種類があった紅茶は、売り切れのものがずいぶん増えて、なかなか補充されなくなった。
平日の昼間なんかに女の子とデートする機会があったとき、私はよくその喫茶店を利用していた。いまは、女の子を連れて行きたいとは思わない。

「ベッカライ・ブロートツァイト」というパン屋のこと

2006年3月に、筑波大学のすぐ近くの学生アパート街にできたパン屋、「ベッカライ・ブロートツァイト」。私はその年の9月に店の存在を知り、それからはずいぶん通った。とてもおいしいパンを売っている。健康のことや地球環境のことなんかも考えている感じは伝わってくるが、あまり「有機」や「マクロビ」といったことを押し出さず、とにかくおいしいパンを提供することを第一にしているという感じがする。
「いい店」が必ず商業的に成功するわけではない。あの店のパンはおいしい、と言ったところで、売り上げがなければ商売は立ち行かない。私はできるだけ頻繁に店に通ったし、近くに住む友人たちに盛んに店の宣伝をした。それは、「いま自分がおいしいパンを食べたい」、「友人にもこのパンのおいしさを伝えたい」という理由だけではなく、「来年も再来年も、この店のパンが食べたい」という理由があった。潰れてしまったら悲しいから、応援しよう、そう思わせてくれるパン屋なのだ。
ベッカライは4年目を向かえ、「つくいち」という朝市を毎月開催するようになった。ハンバーガやサンドウィッチ用にパンを卸すカフェなども増えたようだ。もう、私が応援しなくても大丈夫だろう。これからもずっと、いいパン屋でいるだろう。そんな気がしている。

好きな本屋で、本を買う。

本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本

本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本

「本の未来をつくる仕事」のなかに、「好きな本屋で本を買おう」という一節がある。筆者の内沼氏が主催しているmixiコミュニティから紹介文を引用する。

基本的な考え方は

好きな本屋(新刊書店)がある。
→本を買うときは、できるだけその本屋で買おう!

という、非常にシンプルなものです。


(略)


例えば、コンビニや駅の売店で買える雑誌をぐっと我慢して、いつも行っているその本屋で買う。また、読みたい本があるときはまずその本屋へ行き、在庫がなくとも他の本屋へ行かず、その本屋で取り寄せをして入荷するのを待つ。

どこでも買えるからこそあえて「好きな本屋」で買うことで、その本屋を応援する習慣をつけよう、というのがこの会の主旨です。

[mixi]好きな本屋で、本を買う。

書籍は、どの本屋でも定価で販売されているし、流通網がしっかりしているから、どんなマニアックな本であっても、どんな地方書店でも取り寄せることができるという。そして、本屋の経営は書籍の販売収入によって成り立っている。
ほしい本が近所の本屋にないとき、私はAmazonを利用する。しかしAmazonでは送料もかかるし、運送業者も相性が悪いことが多いし、ときどき届くメールもなんだかおせっかいだし、個人情報がどうのこうのもよく分からない。それなら近所の本屋で取り寄せた方がいいのかもしれない。

まとめ

秋葉原の「古炉奈」が閉店したのは、お客の責任もあったのかもしれない。客が減ったり、客単価が下がったりしていれば、経営は続けられなくなる。つくばの、私が好きだった喫茶店も、もっと通っていればよかったのかもしれないと思ってしまう。
郊外に大きな複合ショッピングセンタがオープンする一方で、駅前に昔からある商店街はシャッタを閉ざしている。小さな映画館はつぶれ、駄菓子と文房具を売っていた商店はもうない。その光景を嘆きながらも、私たちはショッピングセンタに行き、ユニクロで服を買い、スターバックスでコーヒーを飲む。
それは別に悪いことではないけれど、そうやって消えていく小さな店たちのことを大切に思うのであれば、そこに必要なのは、ただ残念がることでも、署名活動でもなく、その店で買い物をすることだ。
大切な店で、買い物をしよう。