「きょうの料理ビギナーズ」が素晴らしい3つの理由

NHKの料理番組、「きょうの料理ビギナーズ」。2007年4月から放送されているそうだけど、私が毎回観るようになったのはこの一年ほどのこと。この番組が素晴らしい。


きょうの料理ビギナーズ」は5分間の番組だ。そんな短時間には料理は完成しないので、当然、編集が入る。
「ビギナーズ」の大きな特徴は、調理者が喋らないという点だ。調理をしている映像の上から、案内役のキャラクターである「ハツ江」が解説する。親しみやすいキャラ設定になっており、おばあちゃん風にお喋りする感じだ。
一般的な料理番組では、調理者がつくりながら解説をする。料理の先生だったり、芸能人だったりが、包丁やフライパンを持ちながら喋る。ライブ感がいいのかもしれないが、この方法では原稿通りの解説にはならないだろう。だから横でアナウンサが「酒大さじ1、砂糖大さじ2分の1が入りました」などと口を挟む。
「ビギナーズ」では、映像情報は編集され圧縮されている。切り方がポイントになる料理ならば切る映像を、火加減が重要ならば火にかけている場面を重点的に見せる。調味料の分量は画面上に文字で出している。ハツ江は「酒、砂糖を加え」とは言うが、「酒大さじ1、砂糖大さじ2分の1を加え」とはまず言わない*1。映像も音声も、調理の全体の流れをつかみ、ポイントを把握することに気を遣っている。この編集方法が、「ビギナーズ」の素晴らしさの1番目の理由だ。


料理のレシピは、ネットを検索すればたくさん見つかる。本もたくさん出版されている。テレビ番組に限った話ではないが、情報のあふれている状況で料理について発信するのであれば、「どんなときにこの料理を思い出してほしいか」、「ある調理法を知ったときに、他にはどんな応用がきくのか」といったエピソード的な情報が重要なのではないか。
「ビギナーズ」の番組内で料理の前後にある短いアニメーションは、こういった物語的情報を伝えるのに役立っている。一般的な料理番組でも、このことはかなり注意深く提供されていると感じる。ただ、「ビギナーズ」のように、現実世界のことに左右されにくい創作キャラクタたちが登場することは、なかなか馬鹿にならない効果があると思っている。


3つ目の素晴らしい点は、番組内容の幅広さだ。あくまでも「ビギナー向け」という姿勢は維持しながら、高度な調理法などにも挑戦していく。
「ビギナーズ」では、基本的に、難しいことはやらない。普通のスーパーで買えない食材は使わない*2。フードプロセッサを使ったところを観た覚えがない*3
2014年11月前半の放送は、お米の特集だった。炊き込みご飯、蒲焼き丼、親子丼、オムライス、ピラフ、リゾット、インディカ米のライスサラダといった具合に、幅広く取り上げられる。お米の研ぎ方や水加減のことを丁寧に説明する回があり、炊き込みご飯のために昆布と鰹節で一番だしを取る回がある。その一方で、カツ丼は「市販のとんかつを買ってきて、あとはタマネギと卵と調味料でつくりましょう」という回がある。
ちゃんとした手順でちゃんとする方法と、簡単なやり方で気軽につくる方法の、どちらも知っていることが大切なのだ。いつも教科書ではたいへんだし、なんでもかんでも時短の裏ワザがいいわけでもない。ビギナーズにとっては、この番組のもつ幅の広い指南が、とても有用だ。


それにしても、NHKの料理番組が「きょうの料理」と「きょうの料理ビギナーズ」および「ひとりでできるもん」後継番組の3種類しかないというのは、バランスが悪いのではないか。「きょうの料理」は同じ番組名のなかでいろいろとやっているのだけれど、もっと「ビギナーズ」寄りの企画に力を入れてもよいのになどと思う。

NHK きょうの料理ビギナーズ 2014年 11月号 [雑誌]

*1:たまには分量を言うかもしれない。

*2:今月はパプリカ(粉)が登場したが、パプリカ(粉)は普通のスーパーでも案外売られている。

*3:過去には少なくとも2度、フードプロセッサが登場する回はあったらしい。