お茶汲みは女性の仕事か

2012年8月14日放送のNHKあさイチ」を観て、気になることがあったので書く。私は「あさイチ」を頻繁に観ているわけではない。このときも偶然テレビをつけたのだったし、最初から最後まで観たわけでもない。この日は再放送特集だったようで、私が気になったのは5月29日放送の「これであなたも緑茶の達人」という回だったのだと思う。
あさイチ」は情報番組だ。一般家庭などに訪ねていき「悩み」を専門家の指導のもと解決していく過程を撮影編集している。よくある番組の作られ方だと思う。一般家庭などを訪ねる演出は、起承転結の「起」みたいなもので、主題を伝えるうえでは必ずしも必要なものではない。いきなり結論だけを紹介することもできる。でもそれでは番組として面白くないだろうし、話の導入として「悩み」を抱えた視聴者が登場したりすることが悪いといいたいわけではない。
件の「緑茶の達人」の回で気になったのは、お茶汲みを担当する女性社員がいるということを当然のことのように紹介していたことだ。その特集では、東京都内のとある会社が紹介された。この会社では朝礼後と15時に従業員ぜんいんで緑茶を飲むのだと紹介される。そして女性職員が登場し、「お茶をいれるのは彼女の役割です」という感じに紹介される。女性は「毎日おなじ味にならなくて……」といった悩みを相談する。映像の中で従業員たちのコップが映るが、5〜7人くらいの従業員数だったような気がする。女性職員は彼女1人だけのようにも見えた。明言されてはいなかったはずだが、彼女がまいにちお茶をいれているのだろう*1
お茶汲みが女性の仕事になっている会社は少なくないだろう。それぞれの会社にはそれぞれの事情がある。女性がお茶をいれるのが当然という会社が2012年になってもたくさんあることは想像できる。従業員へのお茶汲みはなくても、来客へのお茶出しは女性の仕事となっているという会社は多いだろう。お茶やコーヒーは各従業員でいれるとしても、ポットに湯を用意したり、急須やコップを洗って食器棚にしまうのは女性の仕事だという会社だって多いだろう。飲みものがほしい人は自宅から持ってきて、来客にはペットボトルのお茶を出す、という会社もあるだろうけれど、まだそれほど多くないのだろう。そういうそれぞれの会社のやりかたは、それぞれの事情があってのことであるし、評価対象にはなっても非難対象にはするべきではないと思う。
とはいえ、お茶汲み全般を女性職員ひとりが担当するのは古臭い慣習だというのは、一般的な感覚といっていいのではと思う。NHKによって全国放送されるテレビ番組でこのような慣習が紹介されたことは、私にはちょっと受け入れがたい。繰り返しになるが、そういう会社があること自体を非難はしない。登場した女性がお茶汲み仕事を嫌っているのか受け入れているのかは分からないが、それは彼女と彼女の会社の問題で、私がコメントすることではない。テレビ番組で、何の説明もなく、また十分な必然性もなく、このような会社が登場していたことについて、私は違和感と不快感をもったのだと伝えたい。起承転結の「起」としてのエピソードは、登場した会社でなくてもよかったのではないか。一般家庭でもよかっただろう。あるいは従業員がそれぞれ自分でお茶をいれる会社でもエピソードはつくれたのではないか。
女性がお茶汲みをすることが悪習であるとはいわないが、どちらかといえば悪習であるとはいいたい。語り継ぎ引き継いでいくべき文化であるなどとは、いいたくない。お茶汲みは、女性が当たり前のように担当するべき仕事ではないはずだ。それを行っている会社があること自体を非難はしない。ただ、そのような会社を取り上げたことで、女性のお茶汲みは社会的に広く受け入れられている慣習であるというメッセージを「あさイチ」が発信してしまっているように見えてしまうことが、私には残念に感じられる。できることなら今後はそのようなメッセージは抑えていただければいいなと思う。

*1:熱心に背景を観ていたわけではないし、録画していたわけでもないので、正確なことはわかりません。