田舎のイオンにある人生たち

宮城県登米市に行ってきた。仙台からさらに北へ、高速バスで1時間半。
旅行先では、コンビニを一通り眺めるようにしている。コンビニのおにぎりや弁当は、地方によって少し違っている。観光地のコンビニとなるとどこも似通ってくるが、駅前や住宅街に近いコンビニであれば土地柄による違いが見えそうな気がしている。
食品スーパーにも立ち寄った。ヨークベニマルと、イオンに行くことができた。炊事をするようになったので、ざっと眺めれば東京のスーパーと同じ所・違う所が目についてくる。
登米市役所近くのヨークベニマルやイオンには、東京と同じものが売られていた。トップバリュや、セブンプレミアムの製品が売られている。ペットボトルなどは当然のこととして、野菜や魚などについても、ほぼ同質のものがほぼ同価格で置いてあった。
物流が整備されているということだ。
東北道をバスで行く途中で、大きな物流倉庫を何度か見掛けた。コンビニの大型プラントらしい施設も見掛けた。たくさんのトラックが走っていた。
こうしたシステムが日本中に張り巡らせているから、私たちはどこへ行っても同じように消費することができる。
一方で、登米のスーパーには、私が見たことのない商品も売られていた。たとえば、地元企業の納豆や油揚げ。ためしに買った納豆は、タレ・カラシは付属しておらず、包装紙が直接納豆を包んでいた。おいしかった。


ジャンボ油揚げは、昔の相撲取りをイメージした商品らしい。これが観光物産としてではなく、イオンの食品売り場に並んでいるのが面白い。

新幹線くりこま高原駅前のイオンでは、鮮魚売り場にホヤがあった。刺身用ホヤが4個で298円。さすがに生のホヤを新幹線に乗せるのは憚られたので買わなかった。


登米市役所の周りを、夕食を探して歩きながら、ここに住むことはできるだろうかと考えた。
仙台駅から登米市役所まで高速バスで1時間半、1400円。くりこま高原駅なら、もう少し近い。
つくばエクスプレス(TX)ができる前のつくば市を連想する。私がつくば市に住み始めた頃はまだTXはなく、「陸の孤島」と揶揄されていた。ときどき東京へ出るときは、高速バスに乗るか、路線バスで常磐線ひたち野うしく駅まで行く。高速バスは道路が渋滞していると到着時間がすごく遅れるし、常磐線悪天候でしばしば不通になっていた。
東京にしかないものを求めるには厄介だが、基本的な生活には何も困らなかった。生鮮品をのぞけば、買い物はすべてAmazonで済む。
車を飛ばせば、イオンがある。イオンには一通りのものが揃っている。マクドナルドがあり、牛丼店があり、ドーナツ店がある。車をもうしばらく走らせれば、大きなドラッグストアもあるだろう。家電量販店もある。
「孤島」に住むことがハンデとなるのは、買い物ではなく、体験だ。
孤島ではアイドルのライブは開催されない。TSUTAYAはあっても劇場はない。美術館はないし、本屋には雑誌とマンガとベストセラーしかない。外食のできる場所は多くなく、似通った志向の店が多い。パンケーキとカプチーノのお店も、有機野菜と国産ワインのお店も、田舎では流行らない。人口の少ないところに、玄人向けの体験を売る商売は定着しない。
東京近郊に住むことの利便。ベッドタウンとしてそれなりの人口を抱える都市に住むことによる利便。私は「ここ」に住むことができるだろうか。結論はほとんど見えているのに、どうしても言い切ることができず、ロードサイドの焼肉店で冷麺を食べた。

アズミ・ハルコは行方不明

アズミ・ハルコは行方不明

ここは退屈迎えに来て』の山内マリコの二作目である『アズミ・ハルコは行方不明』は、前作同様、地方の物語だ。
中学・高校の同級生たちと、成人式や同窓会で再会し、FacebookやLINEで繋がりなおす。使っている装置は都会と同じものであっても、車を飛ばして出掛けて行く先は、TSUTAYAかドラッグストアかホームセンターかラブホテルか。安い居酒屋で酒を飲み、運転代行で帰る。
地元を離れなかった若者たちは、イオン内の書店で、郊外の大型ドラッグストアで、近所のコンビニで、店員と客の関係になった同級生に、バッタリ再会する。地元に残っている以上、おそらくどちらも「勝ち」ではない。
都会の若者は何をするだろう。FacebookやLINEで連絡を取り、電車に乗って出掛けて行く先は、TSUTAYAドンキホーテかラブホテルか。安い居酒屋で酒を飲み、終電を逃してタクシーで帰る。両者の違いは、スターバックスがあるかないか。見知った誰かと再会する可能性があるかないか。


田舎のイオンモールで週末を過ごす人生は、田舎のイオンモールで週末を働く人生によって支えられている。
インフラと物流のおかげで、どこでも同じように生きられる。職業選択の自由も、居住移転の自由もあるという。
私たちは、どこで生きていくだろう。